作品・受賞者へのコメント

アパレル部門 優秀賞
名古屋モード学園　内藤 琢斗
『YKK CIRCUIT』

なんて楽しい作品なのでしょうか。作っているときもずっとワクワクしたのでは？　その姿を想像したりして、審査会で最も盛り上がった作品でした。ファスナーのスライダーがレーシングカーになっていて、エレメントでコースを走るという、サーキットで遊べるような工夫になっています。特にスライダーは、もしかしたらYKKが商品化するかもしれないくらいの完成度。そして楽しいだけでなく、造形としてもテキスタイルが交差するデザイン。CADの普及とともに工業や建築分野でも増えている表現ですが、それをいち早く取り入れるとともに、どう設計するかのアプローチも技術が光ります。ファッションコンテストというのは、フォルム、テクスチャー、コンセプトが求められ、どうしてもシリアスに考えがち。しかしこの作品は、楽しい、可愛いといったプリミティブな要素が詰まっており、この時勢だからこそより新鮮に感じることができるし、求められているものだと再認識しました。真面目な遊び心を持ったポジティブな作品を今後も期待しています。

取材協力　繊研新聞社

作品・受賞者へのコメント

ファッショングッズ部門 グランプリ
文化服装学院　鳥居 遼太郎
『ATTACHMENT』

YKKファスニングアワードは、一見すると「YKKプロダクツを使わなければならない」という制約があるように感じられるかもしれません。しかし、その条件をどれだけ前向きに捉え、作品の要素として昇華できるかが、評価を大きく左右する重要なポイントだと思います。ファスナーは本来「開閉する」という機能しかありませんが、本作はその機能をしっかりと保ちながら、新しい側面を見出し、別の価値や機能を提案しています。ファスナーの開閉によって着脱が可能となり、さらにサイズ調整も行える点は、この靴における重要なデザイン要素であり、同時に機能そのものでもあります。その発想と構成が、本作ならではの魅力につながっていると感じました。
私自身も普段から、いわゆる「クレイジー」と言われるような靴を制作しているアーティストですが、靴の作品がグランプリを受賞するというのは実はこれまであまり例がなく、個人的にもとても嬉しく思っています。今回のグッズ部門は出品作のレベルが非常に高く、難しい審査となりました。正直なところ、普段は「アパレル部門が少しうらやましいな」と思うこともありますが、今回はまさに接戦だったと言えるでしょう。その中でグランプリに選ばれた本作は、まさに受賞にふさわしいものだと思います。

取材協力　繊研新聞社

作品・受賞者へのコメント

アパレル部門 グランプリ・Circular Design特別賞
文化服装学院　今野 奏
『Re Tree』

今回から新設されたCircular Design特別賞。賞を通じて世の中にメッセージを発信していくことがとても重要だと思います。作品は有機的な造形やフォルムが特徴です。自然からインスピレーションを得て、丁寧に観察しながら唯一のテキスタイルを作りました。そこにファスナーを独自のテンションで引っ張りながら縫い合わせ、うねうねとした独特のフォルムを表現したのがまず新鮮で面白いです。また、ファスナーによってパーツを分解できて、部分的に交換できるのも高評価。たとえ汚れてしまったとしても、長く着続けられる。長い視野でデザインが考えられているところが素晴らしいです。そしてサーキュラーの視点だけではなく、最終的に服がとても美しく、審査員の心をぐっとつかみました。服自身が美しくないと、人は長くこの服をとっておきたい気持ちが醸成されません。美しさはデザインにとって一丁目一番地。受賞につながる重要なポイントになりました。

取材協力　繊研新聞社

作品・受賞者へのコメント

アパレル部門 審査員特別賞
ドレスメーカー学院　石原 実紅
『POLYGON』

この作品は多角形の同一パーツをスナップボタンでつなぎ合わせて衣服を構築しています。その構造的なアイデアとドレスのデザインがうまく調和し、完成度の高い作品として評価されました。作品をじっくり拝見すると、たとえば連結部分に見られる渦を描くような繊細なディテールは、ランプシェードの構造から着想を得ているのだそうです。そうしたアイデアをデザインへと昇華し、美しく軽やかに表現したことが審査員の心に刺さりました。

取材協力　繊研新聞社

作品・受賞者へのコメント

グランプリ・Circular Design特別賞
文化服装学院　今野 奏
『Re Tree』

この作品のテーマは「Re Tree」。初めてこの作品を見たとき、「木が歩いている」と思いました。自然の象徴である“木”をトレースするだけではなく、制作者の高い技術と感性で木を「リスタイル」しています。まず、テキスタイルをリスタイルすることによって、木の“皮膚”と向き合いました。この作品の軸はニットですが、糸や編地、加工をどう選び、組み合わせ、効果的な素材の膨らみや縮みを表現するのか。制作者は何度も実験を重ね、蓄積したデータをもとにグラフィックを作成、コンピューターテクノロジーで縦横２wayに伸縮する皮膚を再現しました。次にマテリアルのリスタイルで、木の“うね”を考え抜きました。できあがった伸縮する皮膚を、ファスナーに伸ばしながら縫製することで生まれるゆがみを利用しました。そのうねが均一にならないように、自らの手の感触でファスナー一本一本を丁寧に取り付け、力強さを表現しています。自然には、二つとして同じものはありません。ましてや一つの個体に同じディテールは決して存在しません。そんな作者のこだわりが感じられます。未来は、AIと人と自然の共存が求められています。この作品のコンセプトはまさに未来へのメッセージが込められており、未来に向かうアワードのグランプリにふさわしい作品です。

取材協力　繊研新聞社

作品・受賞者へのコメント

ファッショングッズ部門 優秀賞
目白ファッション＆アートカレッジ　磯貝祐太
『Torn Bag』

受賞作品は特にですが、作品は大きく分けると二つあると思っています。一つは「わぁ、すごいな」「完成度高いな」「美しいな」と思えるもの、もう一つは「どうしてこんな発想ができるんだろう」「面白いな」「一回持ってみたいな」「着てみたいな」と思わせるもの。このバッグはどちらかというと後者です。そもそもバッグなのに破れちゃっていて、そこにいろんなパーツをつないでいくところがすごく面白い。一方で、ただ奇をてらっているわけではなく、付けるもの、付け方で個性を表現できるし、何よりも機能性がある。YKKの副資材を使っているからこその機能性だと思います。パーツを作っていくと、もっともっと面白いコレクションになっていく拡張性もある。いろんな可能性、今の時代に求められているような社会的価値観も感じられたので、今回優秀賞に選出しました。

取材協力　繊研新聞社

作品・受賞者へのコメント

ファッショングッズ部門 審査員特別賞
東京大学大学院　増田凌
『voronoi』

この作品の最大の特徴は、ファスナーの使い方。一般的にファスナーは機能やデザインで使うものがほとんどだと思いますが、これは中心にファスナーを使っています。構造自体が全てファスナーです。さらにデザインは計算設計で、コンピューターで作られています。そういった過程、考え方は、僕が審査員した中では初めてなのではないかというくらい斬新で革新的だと感じました。また、デザインを作る過程だけでなく、現代におけるプロダクトとしての完成度も非常に高い。デザインの着想は自然界に見られるボロノイですが、EXCELLA®、METALUXE® スタンダードカラーというミニマムな素材を使っている点が、このデザインの美しさ、繊細さを表現しています。また、リペアが簡単にできること、いろんな形に変換・拡張が可能ということも面白いなと思いました。工業化を専攻されているのもあって、全てのデザインを計算されたようなところが増田さんらしい。自分の得意なことがこの作品には出ている。そんなところに最も感銘を受けました。

取材協力　繊研新聞社

作品・受賞者へのコメント

アパレル部門 YKK特別賞
エスモード東京校　YOON MYAT SU LIN
『Shelter-wear』

作者の母国で発生した25年のミャンマー地震をきっかけに、「大切な人を守る服を作りたい」という強い思いを持って、アイデアを具現化した作品です。スタイリッシュでとても都会的なウェアですが、ファスニング商品を活用することによって、バックパックに変形したり、さらにテントとしても活用することができます。驚きの機能性と大胆で独創的なコンセプトを、細部にわたる工夫と丁寧な作業で、高レベルな作品に仕上がっています。大切な人や社会を思う、暖かく切実な愛が作品に込められており、感銘を受けました。


ファッショングッズ部門 YKK特別賞
上田安子服飾専門学校　萩原奈音
『backpacker』

自転車に装着できるサドルバッグとアウターの二形態にトランスフォームするファッションアイテム。サドルバッグとしてもアウターとしても使用者に寄り添った高い実用性を備えたデザインということと、ファスニング商品の特徴と機能を深く理解し適材適所で効果的に使用している点が、多くの素晴らしい作品の中で群を抜いていると評価させていただきました。仕上げの丁寧さから物作りへの真摯な姿勢が感じられ、実用性と完成度の高さが際立つ秀作です。

取材協力　繊研新聞社