作品・受賞者へのコメント
アパレル部門 審査員特別賞
大阪文化服装学院 白草 於登巴 SHIRAKUSA OTOWA
『LAUNDRY』
「LAUNDRY」というデザインストーリーを膨らませる力、そしてそれをまとめきる力がまず素晴らしい。デザインや企画はストーリーを掘り下げたり、表現する力が大切で、それはどんな社会でも通じること。社会人になっても即戦力として活躍できるのではないでしょうか。また、フォルムの美しさも評価ポイントになりました。ボリュームがあるビッグシルエットは軽やかにみせてこそですが、その造形センスが光りました。縫いきる力も目を見張りました。限られた制作時間のなか、最後まで同じテンションで縫いきっています。YKK商品もよどみなく、リズミカルに作品に落とし込み、バランスよく、楽しく、センスのある良作です。一方、YKK商品の分析の確度をもっと高めれば、さらに上位を狙えたとも感じます。
総評
YKKファスニングアワードは、対象アイテムの特性をどのように分析するかが大切です。これが小さくも大きな差となり、グランプリを受賞できるかどうかを左右しています。今回のコンテストは全体的に、対象アイテムの特性を分析することを出発点にデザイン展開してる作品がとても多かった印象を受けました。来年以降も、学生の方々が対象アイテムの特性をよく分析し、もっと大胆に、もっと挑戦的に、もっと今日的にデザインストーリーへ昇華してくれることを期待しています。そうした作品が充実すれば、YKKファスニングアワードが今後さらに他のコンテストとの違いが明確になり、より特別なものになるでしょう。
取材協力 繊研新聞社
作品・受賞者へのコメント
ファッショングッズ部門 グランプリ
文化服装学院 LO HSIANG HUA
『Protection』
圧倒的な完成度を誇り、グランプリにふさわしい作品だと思います。その完成度は製品としてのクオリティだけでなく、コンセプトやメッセージ性を含む作品全体の質の高さに現れています。制作者である作者にしか表現できないストーリー性を感じる点も高く評価できます。一見バックやトランクのように見えるものの、単なる荷物を運ぶ道具ではなく、持ち主の記憶や大切な思い出を守り、保管し、さらに持ち運べるツールとしての役割がある作品です。内部は基本の球体のケースだけでなく、可変性がある点もその人にとっての大切な物を入れるのにふさわしいと思います。作品を提出する際には、「クマのぬいぐるみ」「水晶」「アイスクリーム」を入れることを想定していましたが、特に作者が大切にしている「クマのぬいぐるみ」に関しては、レプリカを自身で作成して提出してくれました。我々は本物を見たわけではないのですが、それほど大切なものを象徴として提示することで、作品への思いがひしひしと伝わってきました。用途とテーマがうまくかみ合い、作者の世界観を強く感じられる作品だったと思います。
ファッショングッズ部門 審査員特別賞
国際トータルファッション専門学校 齋藤 瑛莉花 SAITO ERIKA
『HAND FAN bag』
扇子から着想を得て製作されたとのことですが、扇子はもともと、機能美を兼ね備えたアイテムであり、その特性を見事にバッグデザインに落とし込んでいると思います。畳まれた状態でも、複数のパーツが組み合わさりながらも一体感を保つ構造が美しく、その完成度の高さを評価しました。アイデア自体は過去に似た作品もたくさんあったのですが、他の作品と比較してもクオリティの高さが非常に際立っていました。作者のアイデアがしっかりと形にされており、デザインと機能性が両立するファッショングッズとして優れていると思います。3Dプリンターを使用してオリジナルのパーツを自作するという試みも、今までの作品には無かった部分です。
総評
今回も本当にクオリティが高く、レベルの高い作品が揃いました。グレードが年々上がっていて、審査のたびにそう実感しています。今回はどの作品がグランプリにふさわしいか、審査員一同かなり悩んだというのが正直なところです。特にアパレル部門は、何度もモデルに着てもらい、みんなで議論を重ねました。今年でなければグランプリを獲得していたであろうという作品がいくつもあり、それだけコンテストが盛り上がっているということと同時に、皆さんのレベルが上がっているということだと思います。だから今回受賞できなかった学生の方も、自分に自信を持って、次のクリエーションにつなげてくれることを願っております。
取材協力 繊研新聞社
作品・受賞者へのコメント
アパレル部門 優秀賞
エスモード東京校 YOON MYAT SU LIN
『Adapta Raincoat』
日常生活の中で、YKK商品は機能性とデザイン性を兼ね備えたアイテムとして多くの人々に利用されています。それを、Yoon Myat Su Linさんの作品では「雨」というシーンでどのようにレインコートに活用できるのかを考え、デザインポイントに反映されています。雨の日でも明るい気持ちになるようプリント技術を用いて虹や光を表現することで、暮らしが楽しく豊かになるものを提案されていて、その着眼点にも惹かれました。トランスフォームするとシルエットが変わりますが、可変性とシルエットの美しさを両立させており、素敵な作品に仕上がりました。
総評
今回の審査会では、ユニークな発想と高い完成度を兼ね備えた作品が数多く見受けられました。年々レベルが向上しており、YKKのファスニング商品の機能性を巧みに活かしつつ、独創性溢れる仕上がりになっている点に感銘を受けました。この機会を糧に、更なるご活躍を期待しています。
取材協力 繊研新聞社
作品・受賞者へのコメント
アパレル部門 グランプリ
大阪文化服装学院 岩野 蓮祐 IWANO RENYU
『「個」としての美しさ』
作品の軸となったのはYKK製品の多様性です。まず、ファスナーの多様性。ファスナーにストリング機能を与えることでギャザーを表現し、キルトスカートとハーネスに仕立てました。これは、70年代のパンクスタイルをイメージさせます。次に、面ファスナーの多様性。四角く切り取った「POWERHOOK®」を用い、ビッグシルエットのブルゾンとショートパンツを作りました。これは90年代のストリートスタイルをイメージさせます。その70年代と90年代の背景を織り交ぜながら、YKK商品をうまく活用し、ハイファッションを作り上げたのが最大の注目点。変身や擬態化をテーマにした作品が多い中で、ファスニングアワードにファッション性のある新しいリアルを持ち込みました。まさにグランプリにふさわしいアプローチです。
アパレル部門 審査員特別賞
名古屋ファッション専門学校 田中 愛友 TANAKA AYU
『MT or AT』
この作品の軸になるのは「作用・反作用の法則」です。一つのファスナーを力点、タックボタンを支点、そしてもう一つのファスナーを作用点にして、片方のファスナーを動かすともう片方のファスナーが自動的に動くという、物理の実験のような作業を徹底的に繰り返しました。ただそれだけでなく、美しいシルエットも兼ね備えており、素晴らしい作品となりました。一方、少しまとまりすぎていて、いわゆる“遊びのようなもの”が少し不足してしまったように思います。作品を作る過程で、自らが作品を俯瞰して見ることが必要です。どうしたらこのコンセプトが人に伝わりやすくなるのか?考えてみてはどうだろうか。
総評
ファスナーは19世紀のとても大きな発明だと思います。人々の生活を便利で楽しく豊かにしました。それは多くの実験を繰り返して生まれたのだと思います。そのファスナーに思いもよらないような発想を重ねることが次なる新しい発明につながります。今回のアワードでは、そんな思いもよらないような発想を垣間見ることができました。YKKの人たちも、この会場にいる皆様も、もちろん我々審査員も、この受賞作品から大きな刺激を受けたと思います。そういう意味で今回のアワードはとても意義のある素晴らしいアワードになったと思います。皆さん、お疲れ様でした!
取材協力 繊研新聞社
作品・受賞者へのコメント
ファッショングッズ部門 優秀賞
大阪モード学園 寺尾 佳樹 TERAO YOSHIKI
『MA-1 ニット帽』
独特なアイデアと遊び心を高く評価しました。この作品は、小さな身頃を頭に、長〜い袖を首に巻きつける防寒具としてのMA-1。デザインの面白さが際立っています。他の作品のようにドラマチックにはトランスフォームしないかもしれません。けれど、アイデアは独創的。YKK商品をどう活用して大胆にトランスフォームさせるかという一般的な発想から解放された、「知っているものを、知らないものに」という不思議な愛らしさが魅力です。「神は細部に宿る」という言葉が示す通り、クリエイションは細部へのこだわりの積み重ねによって発揮されます。自身のアイデアを試したい気持ちを優先して多くの要素を盛り込むのは若さゆえの醍醐味ですが、シンプルでも完成度の高い形に仕上げることも多くの人の共感を呼ぶ手段。まさにそんな作品でした。
総評
YKKのパーツを見て改めて思うのは、たとえば「カチっ」という音の出方にこだわるなど、細部にまで工夫して改良を繰り返すことがクリエーションだということ。学生の皆様は若く、特にこうしたコンテストではいろんなアイデアを詰め込みたくなる気持ちはよく理解できます。ただ最終的には、「神は細部に宿る」。いかに美しさや完成度を追求し、破綻しそうなら引き算することも大切です。そうすれば、より多くの共感を得られるのではないでしょうか?これからのご活躍を期待しています。
取材協力 繊研新聞社
作品・受賞者へのコメント
今回は過去に類を見ないほど作品のレベルが高く選定するのにとても苦労しました。両部門共に一番印象に残っている事は、「個性がしっかりと表現された上での完成度の高さ」でした。実際にすぐに買付をしたいと思う作品も多く、これからが非常に楽しみだなと感じました。ありがとうございました。
作品・受賞者へのコメント
アパレル部門 YKK特別賞
文化ファッション大学院大学 呉 耀祖 WU YAOZU
『カメレオン』
ファスニング商品には様々な種類がありますが、「とめる」「ひらく」といった機能を生かしながら、作品のテーマである「カメレオン」のようにデザインを変化させたことが、本当に完成度が高く、素晴らしいです。「こういう使い方もあったんだ」と審査員やYKKの社員一同に学びを与えてくれました。
ファッショングッズ部門 YKK特別賞
エスモード東京校 村上 諒天 MURAKAMI RYOMA
『二面性』
この作品はファッショングッズとしてのエントリーながら、アパレルアイテムとしても優れた完成度を誇っています。見た目からはコートになるとは想像できず、変形することで全く新しい形状を見せる秀逸な作品だと思いました。多くのファスニング商品を組み合わせることで実現される変形構造にもかかわらず、重厚感を感じさせず、着用時に軽やかで自然な仕上がりとなっている点を評価しました。すぐにでも商品化できそうな完成度の高さに魅力を感じさせます。
総評
受賞された皆さま、おめでとうございます。そして8,608点もの多くの応募をいただいた学生の皆さまに、心から感謝を申し上げます。すでに報道されているように、2025年から欧州では、売れ残った衣料品を廃棄することが禁止されます。まさに「適時・適材・適量」という大きな波に、ファッション業界は動こうとしています。審査に参加して今回で8回目となりました。「適時・適材・適量」、すなわち消費者の多様化する要望に応えるためにはどういった商品が求められているのだろうか。そうしたことを考えながら臨んだ審査では、ものすごく大きな熱量を感じる作品ばかりでした。年々作品のクオリティが進化しており、嬉しく思っています。2001年からスタートしたファスニングアワードは、今や学生向けのファッションコンテストとして日本最大級になりました。アワードをここまで育ててくださったクリエイターの皆さま、学校関係およびファッション業界関係者の方々へ感謝の思いを込めて、25周年となる来年のアワードを特別なものにしたいと考えています。
取材協力 繊研新聞社