坂口 英明
デザイナー/モデリスト

作品・受賞者へのコメント

アパレル部門 優秀賞
名古屋モード学園 成田 英至 NARITA EIJI
『CONTROL』

この作品は樹脂バックル(Item code: LB-Q)の特性を分析するところから全てのデザインストーリーが展開されていて、まずそこに好感を抱きました。YKKファスニングアワードはパーツの分析が欠かせず、審査員がみると分析してストーリーに展開しているかどうかは一目でわかります。全体として造形もバランスも素晴らしいのですが、パーツの一つひとつをデザインして積み重ねていったことによって、強い印象をもたらしています。アーチ状にコードを組んでジグザグのステッチで縫い付ける作業もとても難しかったと思います。物だけで帰結する時代ではないので、「誰かのための服」といった作品の向こう側に着る人が見えれば、グランプリの可能性もありました。

総評

"対象パーツの分析と考察からアウトラインのシルエットやストーリーに展開する"というファスニングアワードの意義、スタイルが浸透してきたように思います。前述のプロセスを経て制作された作品とシルエットコンシャスで対象パーツの使い方を後付けするプロセスで制作された作品は一目でわかります。今は五分五分といったところでしょうか。
十分な分析と考察を入口とする作品はたとえシルエットのパンチ力がなくてもしっかり伝わるし、腑に落ちます。また時代感も軽やかさを求めていると思います。対象パーツの分析・考察とその特性を生かしたデザインワーク、計画的でしっかりとした縫製、そしてテクスチャーやコントラストで作る"本物感"の表現。こういったプロセスを経て制作することが入賞への近道だと思います。

取材協力 繊研新聞社
舘鼻 則孝
アーティスト

作品・受賞者へのコメント

ファッショングッズ部門 グランプリ
文化服装学院 鄭 振甫 CHENG CHEN FU
『INSIDE』

2年連続のグランプリはYKKファスニングアワードの歴史のなかで初めてで、素晴らしい快挙です。昨年の作品も印象的でしたが、今回も引き続きコロナ禍における社会的なストーリーが踏襲されていて、作品がシリーズになっているようにも感じました。ガラス建築のファサードをモチーフに、その形状やデザインを作品として成立させたこと、そしてそこにデザインと社会的なストーリーがリンクして内包されていることを評価しました。透明な素材を多用しながら、レザーやウレタンスポンジなどもあわせたことで、独自の表現につながっています。物を大切に、守るためのバッグとしての機能面での完成度もとても高いです。縫製などの仕事もとてもきれいでクオリティが高く、その安定した技術力は本当に優秀です。2度のグランプリ受賞を糧に、これからの活躍を期待しています。

ファッショングッズ部門 審査員特別賞
専門学校ヒコ・みづのジュエリーカレッジ 香西 優仁 KOZAI YUJI
『The Bridge supports you』

アーチ橋をモチーフにして制作された作品です。モチーフを決めてから具現化するまでにはどんなデザインで、どんな素材を使い、どうやって形にしていくかという様々な工程を経ることになります。機能とデザインが両立し、技術的に見てもすべての工程のバランスも良い高品質な作品になっています。シンプルゆえに難しい面もあったと想像しますが、ヒールは型をおこして樹脂で制作するなど、物作りにもこだわった姿勢を感じられたことも好印象です。そうした努力が受賞にむすびつきました。

総評

グッズ部門は、アイデアは良いものの具現化する工程でデザインやクオリティに説得力がなく、決め手に欠ける作品が多かった印象があります。中にはじっくり時間をかけて細部までデザインし、機能性も加味したうえで仕上がっている作品もあり、創作に向き合う姿勢やアワード自体のコンセプトへの理解が伺えたのは良かったです。機能を求められる分野で新たな可能性や画期的なデザインが今後若い世代から生まれてくることに期待します。
アパレル部門は、独創性が高いアイデアが多い中で完成度が伴った作品が少なく、考えを具現化する力が求められています。機能性が求められるファスニングアワードではデザイン性に加えて、そのデザインがどのように機能するかが独創性にも繋がってくると言えます。受賞作品については上記の要素がクリアされており、尚且つその要素自体がオリジナリティとなっていることが今までにない新しさとして評価されました。

取材協力 繊研新聞社
冨永 愛
モデル

総評

入選された皆さん、おめでとうございます。そして、グランプリを始め入賞された8作品の皆さん、 本当におめでとうございます。今回審査では、独創性の高い作品がとても多かったように思います。デザイン画を実物に起こすことは簡単ではないと思いますが、いつも、一次審査で選ばれたデザイン画から想像を越える作品が生まれることを期待して見ています。今回はそのような、想像以上の作品が多く、審査していてワクワクしてとても楽しかったです。本当に素晴らしい作品ばかりで、今後、皆さんが世界に羽ばたくデザイナーとして活躍されることを楽しみにしています。この度は、おめでとうございました。
廣川 玉枝
ソマルタ クリエイティブディレクター

作品・受賞者へのコメント

アパレル部門 審査員特別賞
名古屋モード学園 茶谷 愛理沙 CHAYA ARISA
『Flowering』

テーマにした花を、グラフィックから色彩デザイン、形にまで落とし込めています。平面から立体に展開し、そこにPLANCER® を用いるという全体的な発想と、自身のやりたいことが調和して、一つの素晴らしい作品になっています。最も良かったのは、軽い素材を使用していて、それがランウェーを歩くモデルからも伝わったこと。自分のやりたいことをまっすぐに表現しました。

総評

ファッショングッズ部門は、独創的な形状に挑戦していることに大変好感が持てます。複雑な形とYKK製品の機能をバランス良く融合させている作品が多く見受けられました。グッズは物を入れたり履いたりすると更に力が加わるので、それらも考慮してデザインされているアイテムは、完成度が高く評価されました。アパレル部門は、トランスフォームできるアイデアが多くありましたが、形状変化する機能が上手くデザインに組み込まれている作品とそうでない作品に差が出たように思います。オリジナルの生地や縫製にこだわった完成度が高い作品が多く、その中でもファスナーやスナップの使い方に新たな発見を感じる作品を素晴らしいと思いました。

取材協力 繊研新聞社
藤田 恭一
デザイナー

作品・受賞者へのコメント

アパレル部門 グランプリ
名古屋モード学園 松井 基拡 MATSUI MOTOHIRO
『Circle Zip』

EVERBRIGHT® の持つファスナーの美しさを生かしたリアルクローズを作り上げました。デザインのポイントは「変化する服」。こうしたテーマの作品は他にもたくさんありますが、受賞作品は「服が変化するたびに着ている人が美しく変化していく」のが他との違いになりました。なぜその違いを出せたのか。それは制作者の意識と姿勢です。円をきれいな円として縫うことは、ただでさえ難しい作業だったと思います。ましてやこの作品では円を右から縫ったり、左から縫ったりしています。手にかかる負荷も変わってきて、大体はいびつな形状になってしまいます。またサークル状に縫い付けていく過程で必ず服がゆがんでしまいますが、繊細な修正作業を繰り返すことで克服しています。その結果、人が美しく変化する服になりました。まさにこの服はモダニズムで、今の時代の気分にもあっています。そして何よりこの服は着る人を選ばない。つまりエージレスな作品です。繊細なマテリアルとエレガントなディテールを併せ持ち、若い人から年齢の高い人にまで着たいと思わせられる。そんな作品は今までのグランプリにはなく、これからのYKKファスニングアワードに変化をもたらすことでしょう。

総評

変化する世の中に対して今、作品にも変化が求められています。今までにないアプローチ、過去に踏襲されない作品。自ら立てたテーマに真摯に向き合い、丁寧に制作された作品。その結果作品に生まれたクリエイティビティとリアリティ、インパクトと繊細さ、その両立を実現した作品が出来上がりました。コロナ禍で自分と向き合う時間の過ごし方がその変化を生んだのでしょうか?作品の精度に大きく差が出たコンテストになったと思います。

取材協力 繊研新聞社
村手 謙介
アーバンリサーチ バイヤーズセレクト ブランドディレクター

作品・受賞者へのコメント

ファッショングッズ部門 優秀賞
文化服装学院 LEE CHAN HEE
『エンジンバッグⅠ』

作品を見たとき、審査員一同で「きたか!」となりました。どういう意味かというと、毎年インパクトの大きい作品は1,2点ありますが、この作品はそれだけではなく、まるで本当のエンジンのような動きをしていた。まずそこが面白いです。大きさにも目が行きがちですが、エレガントに仕上げたのもポイントです。ファスナーのほか、素材やパーツやステッチの色までミニマムに統一され、それでいて縫製などの細かい作業はとても丁寧です。ショルダーバッグに変形することで実用性も高く、モード感もあるので、実際に店でも売れそうだと感じました。

総評

ファッショングッズ部門は、完成度がスバ抜けて高い作品がある中で、1つの作品としてフィニッシュまで仕上げられた作品が少ないのが残念でした。コロナ禍を経て楽しさやエコ、SDGsなどの要素を取り入れている作品が多くコンセプトとしては良かったです。アパレル部門も完成度の高い作品とそうでない作品の差が大きく開きました。その中でもファスニング商品の新しい使い方や今までの作品には見られなかったテクニックもあり、進化を感じました。両部門ともにコロナ禍でどれだけ努力をしてきたかで差が出ているのではないかと感じています。そういった意味で、上手く時間を使った成果として新しいアイデアが出てきたのではないかと思います。いかにオリジナリティを完成度高く表現できるかが今後も鍵になりそうです。内面的な職人技が今年はとても良く見えました。

取材協力 繊研新聞社
大谷 裕明
YKK株式会社 代表取締役

作品・受賞者へのコメント

アパレル部門 YKK特別賞
文化ファッション大学院大学 石川 泰生 ISHIKAWA TAISEI
『BONE』

軽さが特徴のMETALUXE® Tough、光沢が美しいEVERBRIGHT® の機能を生かしてコートやパンツの運動量を確保しつつ、人体の形態美を巧みに表現している点を高く評価しました。背骨をモチーフにした無数のパーツにアイレットワッシャーを留め付け、コードを通し連結させたアートピースは非常に美しく、見た目は重厚感があるが、実は身に着ける人に重さを感じさせない工夫が凝らされており感動しました。

ファッショングッズ部門 YKK特別賞
愛知文化服装専門学校 市野 りお ICHINO RIO
『蒼』

click-TRAK® を用いて片手で簡単に袖パーツを取り外せるようデザインされており、同製品の特徴的な開具を巧みに生かした作品が生み出されたことを大変嬉しく思います。撥水性としなやかさを併せ持つFLATKNIT® AquaGuard® を背面の鞄に使用することで中身を保護しつつ、薄手の素材にファスナーを上手く馴染ませている点など、ファスニング商品の機能をよく理解し、適材適所に使用されているため高く評価しました。

総評

YKKファスニングアワードは今年で22回目を迎えました。今年は応募作品が8,500点を超える規模に成長することができ、これまで携わっていただいたすべての方々に心から厚く御礼申し上げます。2年前の記念すべき20回目はパンデミックによって開催の危機となりましたが、オンラインも駆使して乗り越えたことが今に繋がっています。微力ではありますが、少しでも多くのファッションデザイナーが世界に羽ばたけるように、来年以降も必ず継続して開催していきたいと思います。

取材協力 繊研新聞社
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