作品へのコメント
『COINCIDENCE AND PLANARITY』
ビッグシルエットの作品というのは、多くありますが、作者は最適な肩傾斜を、ちゃんと試行錯誤して導き出したと思います。その気持ちの良いシルエットに大変好感を持ちました。高い袖山のジャケットのようなポンチョや巻き込み袖のようなフリル布といったギミックの効いたデザイン、アイディアも素晴らしかったです。
総評
今まではフォルムやテクスチャー、コントラスト、YKKファスニングアワード特有のパーツをデザインに落とし込むアイディア。この4つの要素が大きなファクターでした。審査対象アイテムを単なる化粧として落とし込んだデザインが多かった例年に比べ、今回は全体を通して今日性・時代と同期するセンスというのを付加した作品が特に新鮮に映りました。幾何の立体、1枚で構成するパターン、ダーツ処理など、シルエットを構成するパターンやサイドに切り込んだデザインも多く、挑戦的な姿勢に共感を覚えました。来年以降は、未来を表現していくために今日性や時代と同期する感覚というのを一つ意識していただきたいと思います。皆さんお疲れ様でした。
作品へのコメント
『甲冑~藍~』
甲冑をテーマにした作品は、日本人としてのアイデンティティを投影するという意味で非常に良いチョイスですが、作品として取り扱うのはなかなか難しいテーマだとも感じています。鎧の所謂“甲冑”を表すパーツがストレートに出すぎてしまっても、ファッションの一部になりづらいですし、テーマを再現すると自分らしい作品として表現することも難しくなってくる。ただ、今回の作品に関しては、審査対象アイテムとご自身で作られている靴のバランスが非常にうまく取れていました。現代社会において、ファッションの自己表現というのは、甲冑のように戦闘服のようなものです。そういう意味で、トータルの見せ方として、うまくまとめることができているところが評価のポイントでした。
総評
<ファッショングッズ部門>
独創的なアイディアを具現化することの難しさを感じました。逆に完成度が高くてもアイディアが無いものには魅力を感じません。靴や鞄は根本的に実用性を求められるため、それらを満たした上で、アイディアを具現化し、YKK商品の機能とデザイン性をバランスよく兼ね備える必要があります。難易度が高いですが学生の皆さんにはチャレンジして欲しいです。
<アパレル部門>
アパレル部門では、ファッショングッズ部門のように部分的なアイディアではなく、全体のスタイルを通じて主従関係を定める必要があります。要素を増やしすぎると最も伝えたい部分が薄まる可能性もあることから、自分の中でしっかりと主役を持ち出してほしいです。素材感やカラーリングなどの要素を自分のコンセプトと照らし合わせ、最適なものを選択することも重要ですが、作者自身のアイデンティティを作品に投影出来ているかも評価の重要なポイントです。
作品へのコメント
『JOIN & FORM』
スポーティーなテーマに設定しているものの、色は紺と黒でシックな色を選んでいるので、フォルムと機能で勝負をしており、かなり良くできていたと思います。作品の表現自体もデザイン画ですごく良くできていましたが、実際の作品でデザイン画以上に、立体で複雑性を具現化したというところが、高く評価されたポイントです。今、街で着て歩いてもおかしくないくらいに、格好良いデザインになっていましたし、そういった作品が今年は他にも数多く見られ、とても楽しみながらショーを見ていました。
総評
今回、非常に完成度の高い作品が多くとても良かっです。華やかでありながらYKK製品の良さを機能的にデザインに取り入れている優れた作品が多かったです。受賞されていない作品の中でも、面白い作品があったので、次回や今後に向けて是非頑張って欲しいです。
作品へのコメント
『color』
グランプリの作品は、近年この業界でも話題になっている“テクノロジー”と“クラフトマンシップ”が、YKKのファスナーと作品のひと針ひと針刺繍で作成したテキスタイルに見事にマッチしていました。次に観察と探求。このデザイナーほどYKKのファスナーを観察した人は居ないのではないかというくらい探求しています。この作品に使用されたAUROLITE®は、色の被膜を複数回エレメントにコーティングし、虹のような輝きを表現しています。その光の色を一つずつ繊細に拾って、糸染めをしたと聞いていますが、その糸を使い、オリジナルのテキスタイルを複数探求していることが伺えます。今までは、量や目立たせることを目的とし、加飾として審査対象アイテムが使われていましたが、この作品では、繊細にそのアイテムの性格を対峙に受け止めて表現しています。最後に、社会との共存について。厳密な審査の中で、作品を着たモデルさんに「着心地はどうですか?」と聞くと、「私、この服欲しいです。」と返ってきました。長くこのアワードの審査員を務める中で、聞いたことのない意見でした。YKKのファスナーは、観察と探求によって出来上がったものです。時代の雰囲気を感じ取り、世界中の人々と共存しています。そのYKKのファスナーと作者の観察と探求により完成したこの作品が見事にシンクロしている、まさにこのアワードのグランプリに最高に適した作品が出来上がったと思います。
総評
今回は両部門共に良い作品が揃い、表現方法も今までよりも多彩になり、全体のクオリティーを引き上げることができたように思います。ただ、トランスフォーメーションの方向は否めません。より作品の精度とセンスを上げながら、YKKのアイテムとのコミュニケーションを図るように学生の皆さんには心掛けて欲しいです。
作品へのコメント
『靴にも傘を』
靴を覆うアイディアに加え、全体の完成度の高さを評価しました。普通に履きたいと思うようなキャッチーなデザインで、審査会で実際に履いた際にも、ソールの大きさや全体の前後のバランスなど、細かなところも良くできているのが分かりました。今、SNSが当たり前の時代になっていて、努力して良いプロダクトを作っても入り口のところでフックがかからなければ誰も見てくれない、そう言う厳しい状況にあります。その“キャッチーさ”と“時代性”を反映していると感じました。次に、すごくシンプルな配色。シンプルというのは非常に難しく、製作時は物足りなくなり足し算をしがちですが、この作品は足し算と引き算が潔く、大変センスを感じました。最後に、ソフィックス®の使い方。靴用のカバーと靴本体を留めるパーツとして使われているソフィックス®が、パーツに見えない、デザインの一部と思わせるところにオリジナリティを感じ、最も評価しました。一見、実際にありそうなデザインに見えるけれど、このキャッチ-でシンプルな作品の中には、良く見るとオリジナリティが沢山あり、完成度が非常に高い点が、高評価のポイントでした。
総評
審査員3年目の感想として、新しい時代性を感じました。今までは、見た目の派手さで差別化することが多かった印象でしたが、今回はミニマム、リアルクローズの中で、どう差別化するのかと、センスを感じる作品が非常に多く良かった思います。付属が強くても素材が強くても良くない、このバランスの良さが、受賞した方々には表れていました。ファッションありきで、その中で機能を取り入れることが大前提なので、学生の皆さんにもその部分は忘れないで欲しいです。
作品へのコメント
『peace』
初めに第1次審査のデザイン画では、非常に絵力もあってインパクトを感じたものの、編み込みなどのディテールが非常に凝っていたので、再現できるのかと心配もしていました。しかし、実際出来上がった作品を見て、しっかりと仕上げていたことに感心しました。テーマ自体の災害用バッグが格好悪いという実体験から発想を得たという点にも、説得力を感じました。また洋服と違って、グッズは実用性もある程度加味しなければならないため、審査会では、細かい仕様や縫製といった作り込みの部分も良く見させてもらいました。ショルダー部分のアジャストなどファッションショーでは見られない箇所も含め、細部をデザイン画からさらに進化させて作り込んできていた点にとても感心しました。また、『peace』というネーミングにもデザイナーの想いを感じとれて、とても印象に残る作品でした。
総評
全体的にしっかりとディティールを作り込んでいて、デザイン画に近いイメージで表現できていると感じました。受賞作品以外の入選作品にも、アイテムの特徴を理解し素材やテーマと合っている作品が多く見られました。靴に関しては、デザイン画=図面に近いニュアンスを持っていると思うので、もう少し造りを意識したデザイン画を心掛けた方がよいと感じる作品もありました。
作品へのコメント
『PUZZLE』
この作品では、弊社が主力で製造しているファスナーは使われていません。全てPERMEX®というスナップ&ボタンで、一つ一つのピースをワンアクションで繋いでいます。このシンプルなアイディアがYKK審査員にとって、潔く斬新に見えました。また、パーツの細部をよく見られることを想定し製作されており、作品の出来上がりが非常に丁寧だったことも受賞されたポイントです。
『envelope~ママもパパもおしゃれしたい~』
赤ちゃんの抱っこ紐をテーマにした作品ですが、私の娘も孫を大変な思いで抱っこしており、小さな赤ちゃんといえども長時間抱っこする苦労を感じていました。成長過程やシーンによって、抱っこ紐が逆に荷物になってしまうこともあります。そういった消費者の課題を、審査対象アイテムを使用し、非常にお洒落に解決されたことからこの賞を贈らせていただきました。
総評
審査員を務めさせていただき2年目となりますが、今年は、審査が大変な年だと私も思うほど、非常にレベルが高かったです。ファスニング商品を使って製品の形が変わっていく様は見事としか言いようがありません。このような使い方があったのかと驚かされるアイディアをふんだんに取り入れておられました。
しかしながら、この作品を「買いたい」「使いたい」と思うかというユーザーの立場にもなり審査させていただいたところ、実際の使用時にはファスナーの開閉が難しすぎるのではないか、逆にファスナーがここに付いていることで使いづらいとユーザーは思わないかと感じる作品もありました。
敢えてこのようなことを申し上げるのは、日本のアパレル市場に関係があります。2017年の国内アパレル消費量に対し供給量は大幅に上回っています。この消費と供給のギャップは、デザイナーや工場の方々が精魂込めて作られたものが、最終的には消費者の手に届かずに廃棄されている衣料品の数です。サスティナビリティの観点から考えると、このような時代は長くは続かず、消費者のニーズに合ったより良い商品が、大切に長く使用される時代になっていくと考えております。そういった、一点一点をデザインし、創造される方々がYKKファスニングアワードを通じて一人でも多く世の中に輩出することができれば、これほど嬉しいことはございません。